東北・ソロツーリング〈前編〉

■突然、旅だったわけではないんです。
さて、僕がAdventureというバイクを手に入れたお話は以前しましたよね。
還暦、赤いちゃんちゃんこの代わりに赤いバイク、というやつです。

今年の春からこの秋まで、ひたすらずっとヨットが中心の時間を過ごしてきましたが、僕の心にはいつもバイクの灯りも種火のように消えずにありました。
それが、この旅なのです。
一人馬を駆り見知らぬ土地へ旅する、これこそこのビッグオフに似合うツーリングスタイルだと、最初からイメージが出来ていました。
僕は久々のヨットに夢中になりながら、このイメージを現実のものにすべく、今か今かとタイミングを見ていました。

また、僕はたいてい、日本中の色んな場所に行っています。
でも、東北地方だけは、今まで訪れる機会がありませんでした。
関西の方ならおそらくそんな方は多いのではないかなと思います。
飛行機やフェリーが使える九州や沖縄より、きっとずっと遠い存在なのでしょう。
日本人でありながら、都道府県の全ての地を踏んでいない事実。。。
これを解消するのが、僕の目標でした。

この二つの目標達成を果たすという目的は、もう今を逃せば難しいという季節になった今、遂に決行する運びとなったのです。

■みちのく一人旅の掟
僕が決めたルール、それは

1)11月4日から7日までの4日間の予定で
2)バイクで走るのは日暮れまで、そしてそこで泊まる
3)1日のノルマ走行距離は600km(目標!)

という事でした。したがって一切、予約はしない。
何て贅沢な自由な響きでしょう!
でも、泊まるのは美しい山々に囲まれた温泉旅館ではなく、都心のなるべく設備のいいシティホテル。
理由は簡単。
温泉旅館は都心から離れていて、夜が退屈です。
ホテルの場合、食事にしても選択肢が広いし、バーに行けば、土地の人から色んな情報を得ることができます。

そして、何と言っても「一人旅」これが最高です!

いつものように、先導して道や他のメンバーを気遣う事もない、気を遣うのは、自分のバイクの安全運転だけです。
自由な旅の快適さは、自由にどこまでも行きたいというヨットの旅のモチベーションと似ています。
夜にせよ昼にせよ、いろんなハプニングがあります。
それもまた、楽しみの一つ。
最終目的地は青森県の十和田湖へ、いざ出発!

■1日目 <11月4日(水)> 西宮~富山 走行約370km
この日は、その週頭にきていた寒波も緩み、穏やかな晴天。
空はこの上なくすっきり透明な青空、まさに旅立ちに相応しい天気の中、両方のパニアにざっくりと荷物を詰め、ナビをセットし、西宮を昼の12時スタートしました。

名神西宮ICから勢いよく向かったのは、彦根のバイク用品屋さん。
ツーリング用のパンツを一本調達するつもりがお店の定休日。
やれやれ。

気を取り直して米原まで走り、そこから北陸道へと乗り継ぎます。
福井、金沢と走り抜け、快調に走り続け、4時くらいになると、早速夕暮れの気配が漂い始めるのです。
少し北の国に来たのだなという思いや、冬が近いのだなと感じる一日時間のスピードです。
西宮から遠く離れてきた事を実感させてくれます。
うわ、この辺は日が暮れるのが早いな、と思い始めた時まさに、ふと、北アルプスの山の景色が目の前に横たわり、はるか前方に見える立山連峰の冠雪部分が、濃いオレンジ色に輝き始めたのです。
夕陽が反射してそれを、雪の白い部分が受け止めて反射しているのです。三千メーター級の山々のが目の前に広がり一斉に輝き出し、それらがどんどん近づいてくるのです。本当に例えようもなく美しい光景です。
ヨットでも今までさんざん素晴らしい夕陽を見てきましたが、この雄大な景色はまたひと味違う素晴らしさです。
なにぶん走行中でしたので、写真も何もないのですが、例え写真を撮っていたとしても伝えきれないでしょう。兵庫県では味わえない、至福のひとときでした。

そしてそのまま、誘われるように富山の町へ降りたって、この日の滞在地となったのです。

さあ今夜は以前から印象の良い富山の町で、美味しい海の幸を食べるのだ!ということで、まずは市内のホテルの界隈まで直行し、5時過ぎにはホテルにチェックイン。
スタートが遅かったのでこの日はそんなに距離を稼げませんでしたが、焦っても仕方ない。
もう心は北陸のご馳走村へ!

少し休憩したあと、ブラリ飛び込むのは当然、地元の魚料理の店。
何となくどことなく、看板を見て、会話の出来そうな感じのお店を選びます。
白エビ、甘エビetcetc…、僕の知っている富山の町の海の幸が、生唾を誘います。
まぁこの辺りでは、何度か来た経験上では、海鮮フードでのハズレ無しです。
たいがい、満足のいく美味しいものと出会える町です。

その後は、忘れてはいけないジャズのライブハウスへ行き、地方なりの夜の楽しみを満喫。
(『Cotton Club』というライブハウスでした)
その後は続けて、今年のヨットレースで一度富山に来た時に訪れたバーへ。
(『meine』という素敵なバーです)
お客様同士が楽しんでいる雰囲気が心地よい、地方のゆったりした夜を楽しんだのです。

今日は走行距離が400kmにも満たず、ノルマ達成ならず。
しかしソロ・ツーリングの気楽さと開放感、それに走行距離から、本日の疲労感はほとんど無し。
明日から早く出発して距離を稼がねば、と思いつつ。

■2日目 <11月5日(木)> 富山~盛岡 走行約680km
朝7時30分に起床し、ルームサービスで朝食。
人がざわざわ居る場所で食事というのが、どうも苦手な性分で。
ちなみに、ホテルの朝食の定番、コンチネンタルブレックファーストというやつです。
旅の疲れを癒し開放感を味わうのに相応しい、今どきの若者風に言えば、朝の「プチ贅沢」の後、早々8時30分にスタートしました。

日本海を左に見ながら北陸自動車道を北へひた走る。
午前中に新潟を通過しないとと思いながら、延々と続く海沿いの道はなかなか走りごたえがあるものです。
また、いつもの冬の日本海の、どこかもの淋しい独特の景色とは違って、この日は穏やかでとても気持ち良く走行出来ました。

11時には新潟のジャンクションを過ぎ、磐越自動車道へと乗り継ぎ、横に短い日本列島をしばし横断です。
本当に、山の中をまっすぐ横断するように、山、山の景色です。
両脇にはススキがゆらめき、あっという間に会津若松まで走り、
ちょうど昼頃、福島県の会津磐梯山のふもとのサービスエリアで昼食をとりました。

会津磐梯山とGS:背景にうっすら見えているのが会津磐梯山

会津富士と言われるだけあって、磐梯山はなんとも整ったデザインの山です。
そうそう何度も出会えないだろう景色が、高速道路の両脇にパノラマのように続きます。
いちいち感動なんてしている余裕はなく、ただただ、目標に向かってまっしぐらに走るのみ。

でも、ちょっと変な景色とも出逢いましたよ。
磐越自動車道に入ってすぐに、メリーゴーランドが出現。
こんな田舎で一体誰が乗んやろか、というような場所で。
あと、会津若松付近では、巨大な観音様と出逢いました。淡路島にあるようなやつです。
自然のものだけでいい景色の中に現れた、いかにも作り物っぽい雰囲気に、ちょっと興ざめ?です。

さて、ここからいよいよ本州の北へと一気に目指す事になるわけですが、天気予報を聞いているとどうやら目的地方面の雲行きが怪しくなっているようです。
当初の予定では、日本海沿いに山形〜秋田〜青森と走る予定でしたが、あいにくその方面は雨ということなので、太平洋側にコース変更。
やっと、青森へ続く道、東北道に乗り継いだのです。

福島、宮城、岩手とただただ変わる北の景色を見ながらひたすら走り、次は靑森、いよいよ靑森と思いを馳せながら。

ちょうど花巻を過ぎた午後4時過ぎ頃、今日は盛岡泊かなと考えていると、いきなり激しい雨に降られてしまい、びしょびしょに。高速道路走行中のため、カッパを着るタイミングなどあるはずもなしで。
まあ、ツーリング中に濡れるのはつきもの。これも楽しいエピソードと思いつつ。やはり北の国は季節はもう深い秋、すれ違うバイクなどほとんどありません。
もうここで今日の旅は終わりにしようと5時ごろ盛岡に到着。
雨の中、市内へホテル探しに直行!
市内で一番最初に見つけたホテルへ飛び込んで、チェックインを済ませたのは6時前くらいでした。

ボトボトに濡れたウェアを脱ぎ捨て、ハンガーにかけエアコンで乾かし、自分もしばらく休み、まずはひとごこちつかせ、まもなく市内を散策にサッと出かけたのです。

今日はだんぜん、東北の郷土料理を晩飯に!と思っていたのですが、やはり「ある理由」から、今日も寿司屋を探す事にしたのです。
初日と同様、何となくどことなく良さそう、というのを、お店の看板や雰囲気から判断し、天然の嗅覚で飛び込んだ店は、たいていハズレはありません。

しかし店内では、僕が一言喋ると、店の人やお客さんが「関西からですか?」と近寄ってきてもう大騒ぎ。
すぐにその場は盛り上がり、あっという間にうち解けてしまいました。
それに、店の中は東北弁であふれ、なんともいえない暖かい空気なのです。
東北弁を真似したくっても、もうどうやっても僕には真似出来ないから残念なんですが、大人も若い人も、みんなあのズーズー弁なんですが、それがなんとも心地よいのです。
関西にとても興味を持っているアルバイトの女の子も居て、僕にあれこれ話しかけてくるんです。
ちなみに、とっても美人の女の子でした。
これって、東北美人というのでしょうね。

そこでも、盛岡のバーやジャズスポットなどを尋ねてみると、親切なお客さん達がお店まで案内してくれるのです。それらはいずれもなかなか素敵なバーでした。
そして時間の許す限り、ハシゴもしました。

余談ですが、その中で出逢った女性はみなさんどういうわけか、とても美人でした。
東北は美人が多いという話は本当でした。
それに、東北弁はとても癒される方言だなと感じました。

ちなみに「ある理由」というのはもうお判りですね。
お寿司屋さんというのは、注文する度にコミュニケーションが必須のスタイルです。
会話なくしてなりたたない、確実なお食事処が、寿司屋です。
初めての土地へ行き、情報を得たいならば、行く場所は寿司屋と決まっています。
みなさんも良ければ参考にして下さいね。

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