レスキューバッグ(後編)

■日常の中に取り入れたいロープ
僕は遊びの種類が多い分、たくさんのロープにも触れる機会が多いわけです。
ヨットや、ロッククライミングでは、ロープがずいぶん進化しました。
ウォタースポーツで使うロープや、ジープ遊びで使う金属製のワイヤー、果ては最先端のダイニーマまで、様々なロープをそのシーンに合わせて正しく選び、使ってきました。
素材なり太さなり、特性なり、それらの一つ一つが実に理にかなっていて、面白いのです。

そのような経験から、せっかく得た知識と体験を元に、僕は、いつもの遊びや日常生活の中で役に立つものはないかな、と考えていました。
自然の中で遊ぶのは、常に死や危険と隣り合わせの事が多いのです。
それどころか、ごく身近な日常にさえそれらは転がっているということは、阪神大震災の体験をする数年前のこの当時から、僕はよくよく危機感を持って遊びの中で考えてきたのです。

さておき。
そこで僕はまず「降りる」をテーマに、アレンジを考えました。

身近にパラグライダーをする仲間が居た事もあって、彼らの話題に上がる不時着時の対応を想像してみました。
題して『パラグライダーが木の上に不時着した時』。

そんなイメージで、使えるロープの最善の選択肢は?
空を飛ぶ遊びなのだから、出来る限り小型で軽量、そして20mから30mの高さから降りる事を安全にまっとうすることが出来るロープとは?
太いものは安心感もあるし重量にたえるが、それ自体が重いしかさばるな・・・
というわけで、細さへの挑戦が始まりました。

実験は、武庫川(JIBの近くにある大きな川)の河川敷にある、松の木を使って。
僕は、スタッフの若い連中と一緒に、試したい登山用ロープを直径10mmから4mmまで幾つか用意しました。
細いロープは携帯には理想的なのですが、細さに比例して扱いが困難になってくるのです。
自分でロープを調節しながら降下する※懸垂下降は、ロープが細ければ細いほどブレーキがかけずらくなります。これは、かなり怖い事です。
(※懸垂下降 ロッククライミングでの基本的な下降技術)

また、ロープの強度は太さと伸び率で決まります。
ということで、ナイロンのスタティクロープ(伸びにくいロープの種類)で9mm径以上が望ましいと考えたのですが、ロープの体積とその総重量がどうしても気になりました。

そして、様々なシュミレーションをし、6mmのロープを採用する事になりました。
それは何とか人間が自分の体重と負荷がかかってもコントロール出来るギリギリの細さのでした。
6mmのロープは普段はほとんど使われる事はありませんが、いざという時には新価を発揮する事もあるのです。
素材は、サイバー繊維のダイニーマです。
比重は0.97、強度はアラミドの1.4倍、なんと鉄の8~10倍です。

■レスキューバッグ完成!
さて、選ぶべきロープが決まったところで、やはり用意したいのがそれらを収納する入れ物です。
無事、降下するのに6mmのロープを二重で使用し約15m、これは、木の枝から枝へ10M単位で降りる事を想定したものです。
また、違う用途に使えるという事も考えて、30mという数字を出した僕は、ぴったりそれが入る容量のカバンを考えました。
但し、ロープの収納方法は一工夫しなければいけません。
それは、出したロープをそのまま逆に入れるというやり方です。
こうしておくことで、ロープはもつれず最後までキレイに伸び、排出されるのです。
要するに、ロープの扱いを知っている人ならば、誰もが知っている鉄則を応用するわけです。

そうしてカバンに仕込んだロープを使う時は、ロープのはしを持ってバッグを投げるです。
投げたカバンからはするするとロープが流れ出し、自分とその先をつなぐ命綱が出来るのです。
カバンがロープ排出機能の役割を担うわけですね。この方法なら、投げやすくロープはもつれず最後まで伸びるのです。
ロープの入ったかばん・・・これで、緊急用レスキューバッグの完成です。

また、僕のデザインするバッグには鳩目穴が付いたものが多くあります。
これは、単にデザインではなく、ロープなどを通し色んな事に使えるようにしたものです。
また、そのような想定ですので、鳩目の素材は実際の使用に耐えうる、本物の素材を使っています。

■ロープワーク
さて最後に、肝心な事はロープワークです。
世の中には数多ロープワークがあり、沢山知っていれば良い事はもちろんですが、興味が無ければ覚えないのが普通です。でも、僕の提案するのは3つだけ。
ボウラインノット、クラブヒッチ、エイトノット、この3つです。

JIBのバッグや小物のなかには、ロープを使ったものがあります。これらは、3つのうちどれかの方法で結んであります。
知らない方はこの3つを是非、覚えて下さい。必ず役に立ちます。
JIBに遊びに来て頂けたら、僕がお教えしますよ!

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